糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症は、どちらも動脈硬化が引き金となって発症する眼疾患です。なお動脈硬化の原因の大半は、生活習慣病の罹患によるものです。
糖尿病網膜症
糖尿病の罹患がきっかけとなって発症する眼疾患です。そもそも糖尿病とは、血糖値(血液中に含まれるブドウ糖の濃度)が慢性的に高い状態をいいます。
健康な方でも食事などをすることで血糖値は上昇しますが、膵臓で作られているインスリン(ホルモンの一種)が分泌されることで、ブドウ糖は細胞に取り込まれていきます。これによって脳などのエネルギー源となり、血糖値は元の数値に戻るようになるのです。
ただ糖尿病の患者さんでは、このインスリンが作用不足を起こした状態になっています。その原因はいくつかありますが、日本人の全糖尿病患者の9割以上は糖尿病になりやすい体質と不摂生な生活習慣(過食、運動不足、ストレス、飲酒、喫煙 等)の組み合わせ等で起きる2型糖尿病です。
糖尿病は初期の頃は症状が出にくく、ある程度進行すると異常に喉が渇く、多尿・頻尿、全身の倦怠感、体重減少などがみられるようになります。それでも放置を続けると血管障害が起きるようになります。この場合、とくに細小血管が損傷を受けやすく、これらが集まる網膜は糖尿病による合併症を引き起こしやすくなります。
糖尿病網膜症は、糖尿病に関する治療を何も行わなければ、数年(7~10年程度)が経過してから発症するようになります。病状が進行すれば、霧がかかったように見える、飛蚊症、視力低下のほか、最悪な場合は失明することもあります。自覚症状が現れる頃は、かなり進行している状態です。そのため、糖尿病の罹患が確認できれば、目に異常がみられなかったとしても定期的に眼科で検査を受けられるようにしてください。
検査について
検査が必要とされる場合に行われるのは眼底検査です。主に網膜の状態や血管等を調べます。また造影剤を静脈注射し、網膜の血管の異常がどこにあるかを正確に確認する蛍光眼底造影検査を行うなどしていきます。
治療について
同疾患は、病気の進行状態によって3つのタイプに分けられます。具体的には、単純網膜症、増殖前網膜症、増殖網膜症の順で進行していきます。主な治療内容については、以下の通りです。
単純網膜症
発症初期の状態です。血管の一部にこぶのように腫れ、小さな出血がみられることもあります。この場合、糖尿病網膜症に関する治療をすることはなく、糖尿病治療の血糖のコントロール(生活習慣の改善、薬物療法)が中心となります。
増殖前網膜症
網膜の一部の血管に詰まりがみられ、虚血状態になることもあります。この場合、虚血部分から脆くて破れやすい新生血管が発生することもあります。治療内容は、単純網膜症と同様に血糖コントロールが中心ですが、新生血管の発生リスクがある場合は、レーザーの熱によって虚血状態の部分を凝固させることで、病状の悪化を防ぐレーザー光凝固術が行われます。
増殖網膜症
虚血状態の血管部分から新生血管が発生している状態で、網膜の表面だけでなく、硝子体にも伸びるようになります。これが破れて出血するなどすれば、硝子体出血や網膜剥離がみられるなどして様々な眼症状(飛蚊症、視力低下 等)が現れることがあります。治療内容ですが、血糖のコントロールをはじめ、新生血管をレーザー光によって凝固するレーザー光凝固術のほか、出血等によって濁ってしまった硝子体を取り除く硝子体手術を行うこともあります。
網膜静脈閉塞症
網膜の静脈に閉塞がみられ、それによって網膜に浮腫や出血が起き、様々な眼症状がみられている状態が網膜静脈閉塞症です。発生する部位によって、網膜中心静脈閉塞症、もしくは網膜静脈分枝閉塞症に分けられます。それぞれの特徴は次の通りです。
網膜静脈中心閉塞症
網膜の中では、動脈と静脈が幹から分かれる枝のように広がっています。その幹とされる部分の視神経乳頭部分にある網膜中心動脈と網膜中心静脈は、同じ外膜を共有していてひとつに束ねられている状態になっています。そのため網膜中心動脈が生活習慣病に罹患するなどして動脈硬化を引き起こして肥厚化すれば、網膜中心静脈は外膜の中で圧迫され続けてうっ滞を引き起こすなどして血栓も作られやすくなります。これによって網膜に浮腫や出血などが現れ、何の前触れもなく視力低下などの視力障害が片側の目で起きるようになります。
網膜静脈分枝閉塞症
中心動脈や中心静脈から枝分かれした動脈と静脈は、網膜内で交錯しながら広がっているのですが、その交錯部分においては外膜を共有しています。したがって、動脈硬化を引き起こせば、その部分で静脈が圧迫を受けることになります。これによって、交錯部でうっ滞が起き、血栓が作られやすくなります。この場合も網膜に浮腫や出血がみられるようになりますが、閉塞されている部位に相応して視野欠損が現れます。なお黄斑の部分にまで浮腫が及ぶと物がゆがんで見えるようになる(変視)ほか、高度であれば回復が難しい視力障害になることもあります。
検査について
患者さんの訴えや症状の現れ方などで網膜静脈閉塞症が疑われる場合、眼底検査を行います。この場合、網膜の静脈の状態、浮腫や出血の有無などをみていきます。さらに閉塞部位や進行の程度などをしっかり把握するため、腕の静脈より造影剤を投与していく、蛍光眼底造影なども行います。
治療について
同疾患によって何らかの症状があるという場合に治療を行います。黄斑浮腫によって、視力低下などによる視力障害が起きている、あるいは予防が必要となれば、VEGF阻害薬を眼球に注射していく抗VEGF療法を行います。
また血液の流れが滞るので、新生血管が発生しやすくなります。同血管は脆くて破れやすいので、さらなる視力の低下が考えられます。そのため、熱によって新生血管を凝固させるレーザー光凝固術や新生血管を退縮させる効果がある抗VEGF療法による治療や予防対策を行うこともあります。